はたして短かいほど、閲覧してもらえるのか?

「何分ぐらいが最適なんでしょうか?」クライアントから、このような質問を、繰り返し繰り返し受けます。彼らの懸念は、短い動画の尺数のなかで、自分の表現したいことが、表現しきれるであろうかということにあるようです。

短いほどビデオを見てもらえるという先入観が、クライアントには強くあるようです。「長いビデオを見せられて辟易している」、そんな経験が、ビデオを短くするべきだという先入観へとつながっているのかもしれません。

確かに長くなればなるほど、ビデオは最後まで見てもらえる可能性がなくなることは事実です。とくに動画広告の世界では、15秒や30秒のフォーマットが多いと思いますが、30秒の広告を最後まで見たという人は少ないはずです。またYouTubeなどでは最初の4秒でスキップできるような仕様になっていますが、多くの人は、再生された動画のCMを見ることなく、このスキップボタンをクリックしているケースが多いでしょう。アテンションを如何に引くかということが重要な動画広告の世界では、やはり短いほど有利であることは事実かもしれません。しかしそれは、広告に対して一切の動機づけがなされていないユーザーを対象にした場合に過ぎません。

実際に作成する動画は、インターネット広告だけとは限りません。自社のホームページへ掲載する場合や、検索エンジンから流入してきたユーザーに見せる場合、視聴者はあらかじめ明確な目的をもって閲覧し始めます。興味を喚起させるたけが役目の広告とは、目的が大きく異なるわけです。

動画の利用範囲は、ホームページに掲載するばかりではありません。イベント用や展示会や採用希望者に見せるビデオの場合もあります。また営業ツール用のビデオ(最近はiPadを営業ツールにするケースが多くなっています)、マニュアル用のビデオ、教育用のビデオなど、利用用途は様々であり、ターゲット層を考えると、一概に短いだけが良いということにはつながりません。

誰が見るのか、どこで見るのか、動機と負荷を考える。

つまりビデオの最適な尺数は、用途と、それに応じた対象視聴者のモチベーションによって大きく変わるということです。用途を限定しても、一概に最適な尺数が求められるというわけでもありません。動画の最適な長さを決めるうえで必要なことは、誰が見るのか、どこで見るのか、どのデバイスで見るのかといった、そうした条件と合わせて考える必要があるからです。

誰が見るのか?、対象は誰なのか?。たとえば、商品やブランドに興味のない潜在層なのか、ブランド名を指定して検索してきたユーザーなのかによっても大きく変わります。役員なのか、社員なのか、それともアルバイトなのか、採用希望者なのか、こうした対象の違いによってもビデオの尺数は大きく変わってくる場合もあるかもしれません。

どこで見るのか、職場なのか、自宅なのか、それとも通勤の電車内なのか。いつ見るのか、仕事中なのか、隙き時間なのか、余暇なのか、見るデバイスはPCなのか、スマートフォンなのか、そのように様々な条件によって、ビデオを見るユーザーへの負荷は大きく異なります。こうした条件を頭にいれておくことが最適な尺数を求めるうえで必要になります。

そしてこれが最も重要な要素となりますが、どれだけの動機(モチベーション)でビデオを視聴してくれるか、その動機の強さが、ビデオの尺数を決める決定的な条件となります。

通りがかりの人が店頭で流れるビデオを見るモチベーションと、店舗に自ら出向いてきたお客様が、商品紹介のビデオを見るモチベーションとは、その動機の強さは大きく異なるわけです。

クリエイティブの観点から考えてみると。

クリエイティブの世界では、活字であっても映像であっても、短いほど強い印象を残せるという法則があります。キャッチコピーは、短いほど強いインパクトを与えることができます。しかし何でも短ければ良いかというと、そうとも云えません。短いということは、そこに省かれている情報があるということを意味しています。強いメッセージを打ち出すことができることと引き換えに、その省かれた情報によって、失っているものもあるということにも留意する必要があります。

短ければ一瞬のインパクトは実現できても、肉付けが弱い分、強く内面まで響かないケースもあるわけです。多くの小説家たちが、分厚い長編小説を世に送りこもうとするのは、自分の伝えたいと思う情熱、それをこぼさずに伝えたいという強い熱意から発生されるものなのです。長編小説のあらすじだけを読んだ体験と、実際に小説をすべて読みきったときの体験では、読後の印象は較べようもないくらい違うはずです。

一時期流行ったVINEという6秒動画がありましたが、つくる側、参加する側の愉しさは実現できたのかもしれませんが、心を動かすほどの感動を提示してくれたビデオがあったかは疑わしく感じます。評判になった作品を見ても、筆者には、6秒間で描ききることの難しさばかりが募ってきます。正直、心の底から、気に入るようなビデオはありませんでした。やはり心を動かす表現を実現するには、6秒という尺数は余りにも短すぎると云わざるを得ません。

ここで用途別動画(ビデオ)の、具体的な尺数の数値は記載しませんが、まずは用途と閲覧環境を鑑みて、視聴者の負荷を考えることが重要です。どれぐらいの尺数であれば鑑賞に耐えうるかを計算します。そしてさらに視聴対象者の動機の強さを考慮します。最適な尺数を判断するには、このように総合的な要素から割り出すことが有効だと考えます。

冗長にならないように無駄は省く。

視聴者の負荷を考えると、やみくもに長い動画をつくることは避けなくてはいけませんが、一方でユーザーを強く説得するためには、ある程度の尺数も必要です。また伝えたいという熱意は、概して長いコンテンツへと影響するものです。

最低限というつもりであっても、言いたいことを詰め込んでいくと、コンテンツは次第に長くなっていきます。そうした場合、動画のクオリティを担保するうえでも重複する情報(意図的に反復する場合は別ですが)は避けなくてはなりません。冗長にならないように無駄な部分は省ことが必要です。

それでも尺数が長くすぎて、鑑賞に耐える尺数へ短縮することが難しい場合は、テーマを絞りこむことが有効です。伝えたいことを冷静に整理していくと、複数のテーマで構成されていることが多いものです。こうした複数のテーマを整理して、ひとつのテーマだけに収斂させてしまう、このほうが強く視聴者の心に響くことになります。複数のテーマを描いていくと、視聴者の理解度は低下してしまう可能性が高まります。視聴者によっては、様々な要素が語られることについていけず、違うことを考え始めてしまう場合もあるでしょう。そうしたリスクがあるのであれば、思い切って一つのテーマへと絞りこんだほうが、視聴者の心に響く強いビデオになります。

これは映像だけでなく、活字など、他のクリエイティブの場合も同様です。

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出版社やゲーム会社など事業会社において、営業の最前線から上流の戦略策定まで一貫したマーケティング・経営の実践を学んだあと、2002年よりウェブへ転向。SEOやリスティング広告のコンサルティングを経て、現在は、ブランディング、コミュニケーションについてのプランニング・コンサルティングを行う。また近年は、映像制作やエディトリアル・コンテンツ制作にも力を入れています。著書:『ホームページ担当者が知らないと困るWebサイトリニューアルの常識』(ソシム刊)

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